「押しも押されぬ」は誤用なのか

「押しも押されぬ」は誤用?

押しも押されぬ大スター──こうした表現を耳にすることもあるかもしれませんが、これは誤用とされる言い方です。

正しくは、「押しも押されもせぬ(押しも押されもしない)」で、「どこへ出ても圧倒されない、堂々とした存在」「実力があって立派なさま」を意味します。要するに、「押しも押されもせぬ大スター」とは、圧倒的な存在感を誇るスターのことを指します。

これとほぼ同じ意味の表現に、「押すに押されぬ」があります。「押しも押されもせぬ」と「押すに押されぬ」。この二つが混ざり合い、先ほどの誤用とされる「押しも押されぬ」という言い方が広まったのではないか、とも考えられています。

作家の使い方

それでは、昔の作家は、この「押しも押されもせぬ」という表現をどんな風に使っていたのでしょうか。

それほど多くはありませんが、江戸川乱歩や太宰治、坂口安吾の作品のなかで、その使用例が見られます。



ただ、堀辰雄については、「押しも押されない」と書き、このケースに限っては、いわゆる誤用と言われる使い方をしているかもしれません。

また、他にも同じように、この「押しも押されぬ」というような表現を使っている作家は古くからいるようです。

本来の言い方の「押しも押されもせぬ」の例は、江戸時代から見られる。これに対して、「押しも押されぬ」はというと、これも意外なことにはけっこう古くから使われているのである。『日本国語大辞典 第2版』には、織田作之助の小説『夫婦善哉』(1940)の「半年経たぬ内に押しも押されぬ店となった」という第二次世界大戦以前の例が挙げられている。

国語辞典の中では『明鏡国語辞典』(大修館)が唯一、「押しも押されぬ」はけっこう古くから使われているということに言及している。そして菊池寛のものだという使用例が示されているのだが、残念ながら何という作品の用例かはわからない。それは『無名作家の日記』で発表は1918年のものだから『夫婦善哉』よりも古いことになる。

出典 :「押されもせぬ」なのか? 「押されぬ」なのか?

一般的には誤用と言われるものの、割と古くから使われることもあり、また現代では、「押しも押されぬ」と覚えている人も決して少なくありません。

そのことを考えると、言葉が時代とともに変化していくなかで、「間違いとまでは言い切れない」といった形になっていく可能性もあるのかもしれません。