座敷へ来て、書棚の中から赤い表紙の洋書を出して、方々頁を剥って見ていた。
そこに気のつかなかった宗助は、町の角まで来て、切手と「敷島」を同じ店で買って、郵便だけはすぐ出したが、その足でまた同じ道を戻るのが何だか不足だったので、啣え煙草の煙を秋の日に揺つかせながら、ぶらぶら歩いているうちに、どこか遠くへ行って、東京と云う所はこんな所だと云う印象をはっきり頭の中へ刻みつけて、そうしてそれを今日の日曜の土産に家へ帰って寝ようと云う気になった。
彼は年来東京の空気を吸って生きている男であるのみならず、毎日役所の行通には電車を利用して、賑やかな町を二度ずつはきっと往ったり来たりする習慣になっているのではあるが、身体と頭に楽がないので、いつでも上の空で素通りをする事になっているから、自分がその賑やかな町の中に活きていると云う自覚は近来とんと起った事がない。