「もういい加減に博物館へでも献納してはどうだ。
首縊りの力学の演者、理学士水島寒月君ともあろうものが、売れ残りの旗本のような出で立をするのはちと体面に関する訳だから」「御忠告の通りに致してもいいのですが、この紐が大変よく似合うと云ってくれる人もありますので――」「誰だい、そんな趣味のない事を云うのは」と主人は寝返りを打ちながら大きな声を出す。
「それは御存じの方なんじゃないんで――」「御存じでなくてもいいや、一体誰だい」「去る女性なんです」「ハハハハハよほど茶人だなあ、当てて見ようか、やはり隅田川の底から君の名を呼んだ女なんだろう、その羽織を着てもう一返御駄仏を極め込んじゃどうだい」と迷亭が横合から飛び出す。