「あなたも、あんな帽子を御買になったら、いいでしょう」としばらくして細君は主人に勧めかけた。
「だって苦沙弥君は立派な麦藁の奴を持ってるじゃありませんか」「ところがあなた、せんだって小供があれを踏み潰してしまいまして」「おやおやそりゃ措しい事をしましたね」「だから今度はあなたのような丈夫で奇麗なのを買ったら善かろうと思いますんで」と細君はパナマの価段を知らないものだから「これになさいよ、ねえ、あなた」としきりに主人に勧告している。
迷亭君は今度は右の袂の中から赤いケース入りの鋏を取り出して細君に見せる。