「僕も不思議の極内心少々怖くなったから、なお余所ながら容子を窺っていると、薬缶はようやく顔を洗い了って、傍えの石の上に置いてあった高島田の鬘を無雑作に被って、すましてうちへ這入ったんでなるほどと思った。
なるほどとは思ったようなもののその時から、とうとう失恋の果敢なき運命をかこつ身となってしまった」「くだらない失恋もあったもんだ。
ねえ、寒月君、それだから、失恋でも、こんなに陽気で元気がいいんだよ」と主人が寒月君に向って迷亭君の失恋を評すると、寒月君は「しかしその娘が丸薬缶でなくってめでたく東京へでも連れて御帰りになったら、先生はなお元気かも知れませんよ、とにかくせっかくの娘が禿であったのは千秋の恨事ですねえ。