是等は大概裏から書くか、又は極簡単に叙し去って仕舞われるので、当り前の場合でも、それ程苦痛に近い強烈な刺戟を読者に与えないかも知れませんが、それでも、若し以上に述べたような詩的の雰囲気の中で事が起らなかったなら、ああした淡い好い感じは与えられますまい。
此ぼうっとした印象が、美的な快感を損わない程度の軽い哀愁として、読者の胸にいつの間にか忍び込む理由を、客観的に翻訳すると色々な物象として排列されます。
其内で私は歴史的に読者の過去を蕩揺する、草双紙とか、薄暗い倉とか、古臭い行灯とか、または旧幕時代から連綿とつづいている旧家とか、温泉場とかを第一に挙げたいと思います。