這裡の消息を知ろうと思えばやはり懸崖に手を撒して、絶後に再び蘇える底の気魄がなければ駄目だ」と独仙君はもったい振って、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だから頓と感心したようすもなく
「へえ、そうかも知れませんが、やはり芸術は人間の渇仰の極致を表わしたものだと思いますから、どうしてもこれを捨てる訳には参りません」
「捨てる訳に行かなければ、お望み通り僕のヴァイオリン談をして聞かせる事にしよう、で今話す通りの次第だから僕もヴァイオリンの稽古をはじめるまでには大分苦心をしたよ。