人間は脈の中の血を半分失うと死に、三分の一失うと昏睡するものだと聞いて、それに吾とも知らず妻の肩に吐きかけた生血の容積を想像の天秤に盛って、命の向う側に重りとして付け加えた時ですら、余はこれほど無理な工面をして生き延びたのだとは思えなかった。
杉本さんが東京へ帰るや否や、――杉本さんはその朝すぐ東京へ帰った。
もっとおりたいが忙がしいから失礼します、その代り手当は充分するつもりでありますと云って、新らしい襟と襟飾を着け易えて、余の枕辺に坐ったとき、余は昨夕夜半に、裄丈の足りない宿の浴衣を着たまま、そっと障子を開けながら、どうかと一言森成さんに余の様子を聞いていた彼人の様子を思い出した。