正式にいうと、あらかじめ重吉に通知をしたうえ、なおH着の時間を電報で言ってやるべきであるが、なるべくお互いの面倒を省いて簡略に事を済ますのが当世だと思って、わざと前触れなしに重吉を襲ったのであるが、いよいよ来てみると、自分のやり口はただの不注意から、出る不都合な結果を、自分のうえに投げかけたと同じことになってしまった。
自分はHにどんな宿屋が何軒あるかまるで知らなかったが、この旅館がそのうちでいちばんよいのだということだけは、かねて受け取った重吉の手紙によって心得ていた。
なるほど奥をのぞいてみると、廊下が折れ曲がったり、中庭の先に新しい棟が見えたりして、さも広そうでかつ物綺麗であった。