親も兄弟もない僕の身には、こんな晩は頗る感心しないので、おまけに下宿住、所謂る半夜燈前十年事、一時和雨到心頭といふ一件だから堪忍たものでない、まづ僕は泣きだしさうな顏をして凝然と洋燈の傘を見つめて居たと想像し給へ。
此時フと思ひ出したのはお絹のことである、お絹、お絹、君は未だ此名にはお知己でないだらう。
君ばかりでない、僕の朋友の中、何人も未だ此名が如何に僕の心に深い、優しい、穩かな響を傳へるかの消息を知らないのである。
親も兄弟もない僕の身には、こんな晩は頗る感心しないので、おまけに下宿住、所謂る半夜燈前十年事、一時和雨到心頭といふ一件だから堪忍たものでない、まづ僕は泣きだしさうな顏をして凝然と洋燈の傘を見つめて居たと想像し給へ。
此時フと思ひ出したのはお絹のことである、お絹、お絹、君は未だ此名にはお知己でないだらう。
君ばかりでない、僕の朋友の中、何人も未だ此名が如何に僕の心に深い、優しい、穩かな響を傳へるかの消息を知らないのである。