十一時頃から熱が出て來たので自分はプラツトホームの眞中に設けある四方硝子張の待合室に入つて小さくなつて居ると呑氣なる義母はそんな事とは少しも御存知なく待合室を出て見たり入つて見たり、煙草を喫て見たり、自分が折り折り話しかけても只だ『ハア』『そう』と答へらるゝだけで、沈々默々、空々漠々、三日でも斯うして待ちますよといはぬ計り、悠然、泰然、茫然、呆然たるものであつた。
其中漸く神戸行が新橋から來た。
特に國府津止の箱が三四輛連結してあるので紅帽の注意を幸にそれに乘り込むと果して同乘者は老人夫婦きりで頗る空て居た、待ち疲れたのと、熱の出たのとで少なからず弱て居る身體をドツかと投げ下すと眼がグラついて思はずのめりさうにした。