秋山は黙ってうなずいた。
『僕が十九の歳の春の半ごろと記憶しているが、少し体躯の具合が悪いのでしばらく保養する気で東京の学校を退いて国へ帰る、その帰途のことであった。
大阪から例の瀬戸内通いの汽船に乗って春海波平らかな内海を航するのであるが、ほとんど一昔も前の事であるから、僕もその時の乗合の客がどんな人であったやら、船長がどんな男であったやら、茶菓を運ぶボーイの顔がどんなであったやら、そんなことは少しも憶えていない。
秋山は黙ってうなずいた。
『僕が十九の歳の春の半ごろと記憶しているが、少し体躯の具合が悪いのでしばらく保養する気で東京の学校を退いて国へ帰る、その帰途のことであった。
大阪から例の瀬戸内通いの汽船に乗って春海波平らかな内海を航するのであるが、ほとんど一昔も前の事であるから、僕もその時の乗合の客がどんな人であったやら、船長がどんな男であったやら、茶菓を運ぶボーイの顔がどんなであったやら、そんなことは少しも憶えていない。