馬の顏を斜に見た處で、無論少年の手には餘る畫題であるのを、自分は此一擧に由て是非志村に打勝うといふ意氣込だから一生懸命、學校から宅に歸ると一室に籠つて書く、手本を本にして生意氣にも實物の寫生を試み、幸ひ自分の宅から一丁ばかり離れた桑園の中に借馬屋があるので、幾度となく其處の廐に通つた。
輪廓といひ、陰影と云ひ、運筆といひ、自分は確にこれまで自分の書いたものは勿論、志村が書いたものゝ中でこれに比ぶべき出來はないと自信して、これならば必ず志村に勝つ、いかに不公平な教員や生徒でも、今度こそ自分の實力に壓倒さるゝだらうと、大勝利を豫期して出品した。
出品の製作は皆な自宅で書くのだから、何人も誰が何を書くのか知らない、又互に祕密にして居た殊に志村と自分は互の畫題を最も祕密にして知らさないやうにして居た。