「その夜、門口まで送り、母なる人が一寸と上って茶を飲めと勧めたを辞し自宅へと帰路に就きましたが、或難い謎をかけられ、それを解くと自分の運命の悲痛が悉く了解りでもするといったような心持がして、決して比喩じゃアない、確にそういう心持がして、気になってならない。
そこで直ぐは帰らず山内の淋むしい所を撰ってぶらぶら歩るき、何時の間にか、丸山の上に出ましたから、ベンチに腰をかけて暫時く凝然と品川の沖の空を眺めていました。
『もしかあの女は遠からず死ぬるのじゃアあるまいか』という一念が電のように僕の心中最も暗き底に閃いたと思うと僕は思わず躍り上がりました。