潮の退た時は沼とも思はるゝ入江が高潮と月の光とでまるで樣子が變り、僕には平時見慣れた泥臭い入江のやうな氣がしなかつた。
南は山影暗く倒に映り北と東の平野は月光蒼茫として何れか陸、何れか水のけじめさへつかず、小舟は西の方を指して進むのである。
西は入江の口、水狹くして深く、陸迫りて高く、此處を港に錨を下ろす船は數こそ少いが形は大きく大概は西洋形の帆前船で、出積荷は此濱で出來る食鹽、其外土地の者で朝鮮貿易に從事する者の持船も少なからず、内海を往來する和船もあり。
潮の退た時は沼とも思はるゝ入江が高潮と月の光とでまるで樣子が變り、僕には平時見慣れた泥臭い入江のやうな氣がしなかつた。
南は山影暗く倒に映り北と東の平野は月光蒼茫として何れか陸、何れか水のけじめさへつかず、小舟は西の方を指して進むのである。
西は入江の口、水狹くして深く、陸迫りて高く、此處を港に錨を下ろす船は數こそ少いが形は大きく大概は西洋形の帆前船で、出積荷は此濱で出來る食鹽、其外土地の者で朝鮮貿易に從事する者の持船も少なからず、内海を往來する和船もあり。