石段を登りつめると或家の中庭らしい處へ出た。
四方板塀で圍まれ隅に用水桶が置いてある、板塀の一方は見越に夏蜜柑の木らしく暗く繁つたのが其頂を出して居る、月の光はくつきりと地に印して寂とし人の氣勢もない。
徳二郎は一寸立ち止まつて聽耳を立てたやうであつたが、つか/\と右なる方の板塀に近いて向へ押すと此處は潜内になつて居て黒い戸が音もなく開いた。
石段を登りつめると或家の中庭らしい處へ出た。
四方板塀で圍まれ隅に用水桶が置いてある、板塀の一方は見越に夏蜜柑の木らしく暗く繁つたのが其頂を出して居る、月の光はくつきりと地に印して寂とし人の氣勢もない。
徳二郎は一寸立ち止まつて聽耳を立てたやうであつたが、つか/\と右なる方の板塀に近いて向へ押すと此處は潜内になつて居て黒い戸が音もなく開いた。