そして其夜、淡い霞のやうに僕の心を包んだ一片の哀情は年と共に濃くなつて、今はたゞ其時の僕の心持を思ひ起してさへ堪え難い、深い、靜かな、やる瀬のない悲哀を覺えるのである。
其後徳二郎は僕の叔父の世話で立派な百姓になり今では二人の兒の父親になつて居る。
流の女は朝鮮に流れ渡つて後、更に何處の涯に漂泊して其果敢ない生涯を送つて居るやら、それとも既に此世を辭して寧ろ靜肅なる死の國に赴いたことやら、僕は無論知らないし徳二郎も知らんらしい。
そして其夜、淡い霞のやうに僕の心を包んだ一片の哀情は年と共に濃くなつて、今はたゞ其時の僕の心持を思ひ起してさへ堪え難い、深い、靜かな、やる瀬のない悲哀を覺えるのである。
其後徳二郎は僕の叔父の世話で立派な百姓になり今では二人の兒の父親になつて居る。
流の女は朝鮮に流れ渡つて後、更に何處の涯に漂泊して其果敢ない生涯を送つて居るやら、それとも既に此世を辭して寧ろ靜肅なる死の國に赴いたことやら、僕は無論知らないし徳二郎も知らんらしい。