「まア可いサ、酒でも飲みましょう」と大友は酌を促がして、黙って飲んでいると、隣室に居る川村という富豪の子息が、酔った勢いで、散歩に出かけようと誘うので、大友はお正を連れ、川村は女中三人ばかりを引率して宿を出た。
川村の組は勝手にふざけ散らして先へ行く、大友とお正は相並んで静かに歩む、夜は冷々として既に膚寒く覚ゆる程の季節ゆえ、渓流に沿う町はひっそりとして客らしき者の影さえ見えず、月は冴えに冴えて岩に激する流れは雪のようである。
大友とお正は何時か寄添うて歩みながらも言葉一ツ交さないでいたが、川村の連中が遠く離れて森の彼方で声がする頃になると、