十日前のこと、自分は縁先に出て月を眺め、朧ろに霞んで湖水のような海を見おろしながら、お露の酌で飲んでいると、ふと死んだ妻子のこと、東京の母や妹のことを思いだし、又この身の流転を思うて、我知らず涙を落すと、お露は見ていたが、その鈴のような眼に涙を一ぱい含くませた。
その以前自分はお露に涙を見せたことなく、お露もまた自分に涙を見せたことはないのである。
さても可愛いこの娘、この大河なる団栗眼の猿のような顔をしている男にも何処か異なところが有るかして、朝夕慕い寄り、乙女心の限りを尽して親切にしてくれる不憫さ。