肌脱の荒くれ男の影鬼の如く映れるあり、乱髪の酌婦の頭の夜叉の如く映るかと思へば、床も落つると思はるゝ音が為て、ドツとばかり笑声の起る家もあり。
「飲めよ」、「歌へよ」、「殺すぞ」、「撲るぞ」、哄笑、激語、悪罵、歓呼、叱咤、艶ある小節の歌の文句の腸を断つばかりなる、三絃の調子の嗚咽が如き忽ちにして暴風、忽ちにして春雨、見来れば、歓楽の中に殺気をこめ、殺気の中に血涙をふくむ、泣くは笑ふのか、笑ふのは泣くのか、怒は歌か、歌は怒か、嗚呼儚き人生の流よ!
数年前までは熊眠り狼住みし此渓間に流れ落ちて、こゝに澱み、こゝに激し、こゝに沈み、月影冷やかにこれを照して居る。