母上との物語をおえて二階なるわが室にかえり、そのまま身を椅子に投げ、両手もてわが顔をおおいぬ。
この時こころの疲れ、身の疲れを一時に覚えて底なき穴に落ちゆく心地し、しばしは何事をも忘れたり。
夢現の境を漂うて夜のふくるをも知らざりしが、ふと心づきて急に床に入りたれど今は心さえてたやすくは眠るあたわず、明けがた近くなりてしばしまどろみぬと思うや、目さめし時は東の窓に映る日影珍しく麗かなり、階下にては母上の声す、続いて聞こゆる声はまさしく二郎が叔母なり、朝とく来たりて何事の相談ぞと耳そばだつれど叔母の日ごろの快活なるに似ず今朝は母もろともしめやかに物語して笑い声さえ雑えざるは、いぶかしさに堪えず、身を起こして衣着かえんとする時階段を上り来る音してやがて頭さしいだせしはわが妹なり、宮本の叔母様来たりたまいぬ早く下りたまえと言い捨ててそのまま階下にゆけり。