二郎やむを得ず宝丹取りだして、われに渡しければわれ直ちに薬を掬いて貴嬢が前に差しいだしぬ、この時貴嬢が眼うるみてわが顔を打ち守りたまいたる、ああ刻き君かなとのたまいしようにわれは覚えぬ。
たやすく貴嬢が掌いだしたまわぬを見てかの君、早く受けたまわずやと諭すように物言いたもうは貴嬢が親しき親族の君にてもおわすかと二郎かの時は思いしなるべし、ただわれ、宇都宮時雄の君とはこの人のことよと一目にて看破りたれば、貴嬢に向かってかかる物の言いざましたもうを少しも怪しまざりき。
貴嬢が掌に宝丹移せし時、貴嬢は再びわが顔を打ち守りたまいぬ、うるみたる貴嬢の目の中には、むしろ一匙の毒薬たまえ刻き君とのたもう心鮮やかに読まれぬ。