ああこの時、わが目と二郎の目とは電のごとく貴嬢が目を射たり、蒼ざめし貴嬢が顔はたちまち火のごとく赤く変わり、いそぎハンケチもておおいたまいし後はしばしわれらの言葉も絶えつ。
貴嬢がかかる気高き兄君をもちたもうことはわれらまことに知らざりき、まして貴嬢が鎌倉の辺に遊びたもうは始めての由を聞き、われらあきれてしばしは物も得言わず眼をみはりて貴嬢を打ち守りたる、こは理あることと貴嬢もうなずきたまわん、かくにわかに顔色を変えたもうは限りなき恥を感じたまいしこととわれらは見たり。
貴嬢はよも鎌倉にて初めて宮本二郎にあいたまいたる、そのころの本末を忘れたまわざるべければ。