これ壮年の者ならでは知らぬ涙にて、この涙のむ者は地上にて望むもかいなき自由にあこがる。
しかるに壮年の人よりこの涙を誘うもののうちにても、天外にそびゆる高峰の雪の淡々しく恋の夢路を俤に写したらんごときに若くものあらじ。
詩人は声はり上げて『わが心高原にあり』をうたい、『いざ去らば雪をいただく高峰』の句に至りて、その声ひときわ高く、その目は遠く連山の方を見やりて恋うるがごとく、憤るがごとく、肩に垂るる黒髪風にゆらぎ昇る旭に全身かがやけば、蒼空をかざして立てる彼が姿はさながら自由の化身とも見えにき。