わが青年の名を田宮峰二郎と呼び、かれが住む茅屋は丘の半腹にたちて美わしき庭これを囲み細き流れの北の方より走り来て庭を貫きたり。
流れの岸には紅楓の類を植えそのほかの庭樹には松、桜、梅など多かり、栗樹などの雑わるは地柄なるべし、――区何町の豪商が別荘なりといえど家も古び庭もやや荒れて修繕わんともせず、主人らしき人の車その門に駐りしを見たる人まれなり、売り物なるべしとのうわさ一時は近所の人の間に高かりしもいつかこのうわさも消えて跡なく、ただ一年半ば以前よりこの年若き田宮の来たり住みつ。
年は二十を越ゆるようやく三つ四つ、背高く肉やせたり、顔だち凜々しく人柄も順良に見ゆれどいつも物案じ顔に道ゆくを、出であうこの地の人々は病める人ぞと判じいたり。