青年は童の言うがまにまにこの驢馬にまたがれど常に苦笑いせり。
青年には童がこの兎馬を愛ずるにも増して愛で慈しむたくましき犬あればにや。
庭を貫く流れは門の前を通ずる路を横ぎりて直ちに林に入り、林を出ずれば土地にわかにくぼみて一軒の茅屋その屋根のみを現わし水車めぐれり、この辺りには水車場多し、されどこはいと小さき者の一つなり、水車場を離れて孫屋立ち、一抱えばかりの樫七株八株一列に並びて冬は北の風を防ぎ夏は涼しき陰もてこの屋をおおい、水車場とこの屋との間を家鶏の一群れゆききし、もし五月雨降りつづくころなど、荷物曳ける駄馬、水車場の軒先に立てば黒き水は蹄のわきを白き藁浮かべて流れ、半ば眠れる馬の鬣よりは雨滴重く滴り、その背よりは湯気立ちのぼり、家鶏は荷車の陰に隠れて羽翼振るうさまの鬱陶しげなる、かの青年は孫屋の縁先に腰かけて静かにこれらをながめそのわきに一人の老翁腕こまねきて煙管をくわえ折り折りかたみに何事をか語りあいては微笑む、すなわちこの老翁は青年が親しく物言う者の一人なり。