たちまち顔は常の色に復りつ、後をも見ずして静かに街をのぼり往きぬ。
犬はかれに先立ちて街を駆けのぼり早くかなたにありて青年を待てり。
登りつむればここは高台の見晴らし広く大空澄み渡る日は遠方の山影鮮やかに、国境を限る山脈林の上を走りて見えつ隠れつす、冬の朝、霜寒きころ、銀の鎖の末は幽なる空に消えゆく雪の峰など、みな青年が心を夢心地に誘いかれが身うちの血わくが常なれど、今日は雲のゆきき早く空と地と一つになりしようにて森も林もおぼろにかすみ秋霧重く立ちこむる野面に立つ案山子の姿もあわれにいずこともなく響く銃の音沈みて聞こゆ。