寺の鐘までがいつもとは違うように聞え、その長く曳く音が谷々を渡って遠く消えてゆくのを聞きましたら、急に母が恋しくなって、なぜ一しょに帰らなかったろう、今時分は家に着いて祖母さんと何か話してござるだろうなど思いますと堪らなくなって叔母にこれからすぐ帰えると云いだしました。
叔母は笑って取り合ってくれません、そのうちに燈火が点く、従兄弟と挾み将棊をやるなどするうちにいつか紛れてしまいましたが、次の日は下男に送られすぐ家に帰りました。
また母と一しょに帰る時など、二人とも出かける時ほどの元気はありませんで、峠を越す時、母は幾度となく休みます。