ただその資質に一点我慢強いところのある上に、維新の際妙な行きがかりから脇道へそれて遂に成るべき功名をも成し得ず、同輩は侯伯たり後進は子男たり、自分は田舎の老先生たるを見、かつ思う毎にその性情は益々荒れて来て、それが慣い性となり遂には煮ても焼ても食えぬ人物となったのである、であるから老先生の心底には常に二個の人が相戦っておる、その一人は本来自然の富岡氏、その一人はその経歴が造った富岡先生。
そして富岡先生は常に猛烈に常に富岡氏を圧服するに慣れている、その結果として富岡氏が希望し承認し或は飛びつきたい程に望んでいることでも、あの執拗れた焦熬している富岡先生の御機嫌に少しでも触ろうものなら直ぐ一撃のもとに破壊されて了う。
この辺のところは御存知でもあろうが能く御注意あって、十分機会を見定めて話して貰いたい。