自分が先生に向て自分の希望を明言した時に梅子は隣室で聞いていたに違いない、もし自分の希望を全く否む心なら自分が帰る時あんなに自分を慰める筈はない……」
「梅子は自分を愛している、少くとも自分が梅子を恋ていることを不快には思っていない」との一念が執念くも細川の心に盤居まっていて彼はどうしてもこれを否むことが出来ない、然し梅子が平常何人に向ても平等に優しく何人に向ても特種の情態を示したことのないだけ、細川は十分この一念を信ずることが出来ぬ。
梅子が泣いて見あげた眼の訴うるが如く謝るが如かりしを想起す毎に細川はうっとりと夢見心地になり狂わしきまでに恋しさの情燃えたつのである。