拙者ばかりでなくこういう風であるから無論富岡を訪ねる者は滅多になかった、ただ一人、御存知の細川繁氏のみは殆ど毎晩のように訪ねて怒鳴られながらも慰めていたらしい。
然るに昨夕のこと富岡老人近頃病床にある由を聞いたから見舞に出かけた、もし機会が可かったら貴所の一条を持出す積りで。
老人はなるほど床に就いていたが、意外なのは暫時く会ぬ中に全然元気が衰えたことである、元気が衰えたと云うよりか殆ど我が折れて了って貴所の所謂る富岡氏、極く世間並の物の能く通暁た老人に為って了ったことである、更に意外なのは拙者の訪問をひどく喜こんで実は招びにやろうかと思っていたところだとのことである。