然るに昨夕のこと富岡老人近頃病床にある由を聞いたから見舞に出かけた、もし機会が可かったら貴所の一条を持出す積りで。
老人はなるほど床に就いていたが、意外なのは暫時く会ぬ中に全然元気が衰えたことである、元気が衰えたと云うよりか殆ど我が折れて了って貴所の所謂る富岡氏、極く世間並の物の能く通暁た老人に為って了ったことである、更に意外なのは拙者の訪問をひどく喜こんで実は招びにやろうかと思っていたところだとのことである。
それから段々話しているうちに老人は死後のことに就き色々と拙者に依托せられた、その様子が死期の遠からぬを知っておらるるようで拙者も思わず涙を呑んだ位であった、其処で貴所の一条を持出すに又とない機会と思い既に口を切ろうとすると、意外も意外、老人の方から梅子嬢のことを言い出した。