殊に赤坂芸者と言つて、東京市中、数ヶ所の芸者の居処の一になつて居るから、夜になると、紅燈緑酒の有様が田町の家並に開かれるので、溜池の大通を歩くと、あの二階でも此の二階でも三絃、太鼓の花々しい響か、それとも爪弾とやら、乙に気取つた楽の音が洩れるのです。
下町の方から景気よく車を駆つて溜池の広い通を来る紳士があると仮定なさい、道幅が二十間もある坦々たる道、右は溜池、左は家並、そして桜と柳が左右に並んで植込んである中を車は飛ぶのです。
此車の轅の下ろされる処は、言はずもがなで、東京の今の紳士といはれる仲間の十の七八は皆な斯んなことを以て得意として居るのです。