僕が大島學校に上つてから四五日目で御座いました、四十を越えた位の一人の男が學校の運動場に來て、校長と頻りに何事か話して居ましたが、其周圍に七八名の生徒が立つて居て、顏を上て二人の物語を聞て居ました。
暫くして其男は丁寧にお辭儀を爲て、校長も至極丁寧に禮をして、そして二人は別れました。
僕は子供心にも此樣子を見て不審に思つたといふは、其男の衣服から風采から擧動までが、一見百姓です、純然たる水呑百姓といふ體裁です、けれども校長の之に對する樣子は郡長樣に對する程の丁寧なことなので、既に浮世の虚榮心に心の幾分を染められて居た僕の目には全く怪しく映つたのです。