僕が此小學校に入る僅か四年前に此學校は創立されたので、其より更に十年前のこと、正月元日の朝でした、新年の初光は今將に青海原の果より其第一線を投げ、東雲の横雲は黄金色に染り、沖なる島山の頂は紫嵐に包まれ、天地見るとして清新の氣に充たされて居る時、濱は寂寞として一の人影なく、穩かに寄せては返へす浪を弄し、又弄されて千鳥の群は岩より岩へと飛びかうて居ましたが、斯かる際にも絶望の底に沈んだ人の心は益々闇を求めて迷ふものと見え、一人の若者ありて、蒼ざめた顏を襟に埋め、一の岩角に蹲居つて頻りと吐息を洩して居ました。
彼は其覺悟を決めながらなほ、躊躇うて居たのです。
人の足音に驚ろいて後を振返へると一人の老人が近づいて來る處です。