天職を自覚せず、また、それにたいする責任を感ぜず、上のものは、下のものに好悪の感情を露骨にあらわして平気だった、いまよりは、もっと暗かった時代の話であります。
新しく中学の受け持ち教師となったSは、おけ屋のむすこの秀吉を、どういうものか好きでありませんでした。
特別にきらった理由の一つは、ほかの生徒のごとく学科ができないからというのではなく、秀吉がいつも、じっと教師の顔を見つめて、なにか恨みをもつように、あるいは相手の心の内をさぐるように、ゆだんのできぬ、いらだたしい感じを、与えるからでありました。