賑かな町に住んでいる人は、心を浮き立てるような笛や、ラッパの音や、楽隊の音色や、または、夕暮方の電車の音などに耳を傾けて、あてない空想に耽ったり、また、華かな瓦斯の燈火のつく頃の夜の楽しさを思うて、気がうき/\として、隣りや、向い筋から聞えて来る琴や、三味線の音色に、何んとなく、夢を見るようなうっとりとした気持になって、自分も、手にしていた紅い布を傍にやってほつれ髪を掻きあげながら、ほうっとした顔付で三味線にあわせて口ずさむ女もあろう。
また、さびしい、室の裡に物思いに沈んで、眤と下を見つめて、何事をか考えている、青い顔の年老った女があろう。
窓の障子の上には、夕暮方の光線がぼんやりと染んで、頭には幾分か白髪も交って頬に寄った小皺が目立って見える……室の中には、傷いた道具が僅かばかり並べられてあるばかりで、目を惹くような貴重のものも見当らない。