この間、ある書物を読んだら、ウエバーと云う生理学者は自分の心臓の鼓動を、増したり、減したり、随意に変化さしたと書いてあったので、平生から鼓動を試験する癖のある代助は、ためしに遣ってみたくなって、一日に二三回位怖々ながら試しているうちに、どうやら、ウエバーと同じ様になりそうなので、急に驚ろいて已めにした。
湯のなかに、静かに浸っていた代助は、何の気なしに右の手を左の胸の上へ持って行ったが、どんどんと云う命の音を二三度聞くや否や、忽ちウエバーを思い出して、すぐ流しへ下りた。
そうして、其所に胡坐をかいたまま、茫然と、自分の足を見詰めていた。