偶々道に迷うて、旅人のこの辺まで踏み込んで、この物怖しの池の畔に来て見ると、こは不思議なことに年若い女が悄然と佇んで、自分の姿をその白銀のような水面に映してさめざめと泣いているのを見る。
旅人は斯様な山中にどうして斯様女がいるかと怪しみながら傍へ行こうとすると蔦葛や、茨に衣のからまって、容易に行くことが出来ず、声を上げて女を呼ぶとその声音が不思議に妙な反響を木精にたてて、静かな死せるような水面がゆらゆらと揺ぐ。
ぞっとして踵を返して、一生懸命に野を横ぎり、又もや村里の方を指して程少し来ると思う時分に百万の軍勢が鬨を造って、枯野を駆けるがように轟と風やら、雨の物音が耳許を襲う。