兵蔵も、仕事場で蝋を溶しながら、暗い片隅の方で釜の下の火を掻き廻しては、折々その手を止めて町の家根の上を飛んで彼方に淋しそうに見える杉の巓を越えて、果ては北となく、西となく散りて行く雲を眺めて、仕事をするのを忘れて我が子の身の上を案じたことも二度や三度ではなかった。
月日は夢の中に過ぎた。
清吉が東京へ出てから五年目の春の暮である。
兵蔵も、仕事場で蝋を溶しながら、暗い片隅の方で釜の下の火を掻き廻しては、折々その手を止めて町の家根の上を飛んで彼方に淋しそうに見える杉の巓を越えて、果ては北となく、西となく散りて行く雲を眺めて、仕事をするのを忘れて我が子の身の上を案じたことも二度や三度ではなかった。
月日は夢の中に過ぎた。
清吉が東京へ出てから五年目の春の暮である。