それから、これは私一人だけの感じであるかも知れないが、およそ日本人の皮膚に能衣裳ほど映りのいゝものはないと思う。
云うまでもなくあの衣裳には随分絢爛なものが多く、金銀が豊富に使ってあり、しかもそれを着て出る能役者は、歌舞伎俳優のようにお白粉を塗ってはいないのであるが、日本人特有の赧みがかった褐色の肌、或は黄色味をふくんだ象牙色の地顔があんなに魅力を発揮する時はないのであって、私はいつも能を見に行く度毎に感心する。
金銀の織り出しや刺繍のある袿の類もよく似合うが、濃い緑色や柿色の素襖、水干、狩衣の類、白無地の小袖、大口等も実によく似合う。