私の耳には甲斐絹の羽織の裏のさや/\とこすれて鳴るのが聞え、私の鼻は着物から放つ樟脳の香を嗅ぎ、私の頬は羽二重の裂地にふうわりと撫でられ、胸と腹とは信一の生暖かい体の重味を感じている。
潤おいのある唇や滑かな舌の端が、ぺろ/\と擽ぐるように舐めて行く奇怪な感覚は恐ろしいと云う念を打ち消して魅するように私の心を征服して行き、果ては愉快を感ずるようになった。
忽ち私の顔は左の小鬢から右の頬へかけて激しく蹈み躪られ、其の下になった鼻と唇は草履の裏の泥と摩擦したが、私は其れをも愉快に感じて、いつの間にか心も体も全く信一の傀儡となるのを喜ぶようになってしまった。