五条の橋から遥に愛宕山を望むと、恰も熔鉱炉の底から煽り上る熱気に似た陽炎が麓に打ち煙って、遠くの野や林はもやもやと霞に曇り、近い町々の甍や石垣や加茂川の水は、正視するに忍びない程、クッキリした、強い色彩に染られて、生々しいペンキ塗りの如く私の瞳孔を刺した。
切符売場の前で梶棒を据えられた時、私は俥から下りようとして、着物の裾が汗ばんだ両脛へ粘り着いた為めに、危く脚を縛られて倒れそうになった。
電車ならば大丈夫………こう信じて、無理やりに安心しようと努めて居た私の神経は、もう此の暑熱の威嚇にさえ堪えられなくなって居たのであった。