それと云うのは、派手好きな養父と違い、堅実一方で臆病でさえある自分の性質が、経営難と闘いつつ不馴れな家業を再興するのに不向きなことを考え、より安全な道を選んだ結果で、当人にすれば養子たる身の責任を重んじたからこその処置なのであるが、雪子は昔を恋うるあまり、そう云う義兄の行動を心の中で物足りなく思い、亡くなった父もきっと自分と同様に感じて、草葉の蔭から義兄を批難しているであろうと思っていた。
と、ちょうどその時分、―――父が死んで間もない頃、義兄がたいそう熱心に彼女に結婚をすすめた口があった。
それは豊橋市の素封家の嗣子で、その地方の銀行の重役をしている男で、義兄の勤める銀行がその銀行の親銀行になっている関係から、義兄はその男の人物や資産状態などをよく知っていると云う訳であった。