義兄にしてみれば、義妹は学問はよく出来たかも知れないけれども、少し因循過ぎるくらい引っ込み思案の、日本趣味の勝った女であるから、刺戟の少い田舎の町で安穏に暮して行くのには適しているし、定めし本人にも異存はあるまいと極めてかかったのが、案に相違したのであったが、内気で、含羞屋で、人前では満足に口が利けない雪子にも、見かけに依らない所があって、必ずしも忍従一方の婦人ではないことを、義兄が知ったのはその時が最初であった。
が、雪子にしても、お腹の中ではっきり「否」にきまっていることなら、早くそう云えばよいものを、どうとも取れるような生返事ばかりしていて、いよいよとなってから、それも義兄や上の姉には云わないで、幸子に打ち明けたのは、一つには余りにも熱心な義兄の手前、云い出しにくかったせいもあろうが、そう云う風に言葉数の足りないのが、彼女の悪い癖なのであった。
そのために義兄は内心否でないものと感違いをし、先方も見合いをしてからは、急に乗り気になって是非にと懇望して来ると云う訳で、話は退っ引きならない所まで進んだのであったが、一旦「否」の意志表示をしてからの雪子は、そうなると義兄や上の姉が代る代る口を酸くして頼むようにして勧めても、最後まで「うん」と云うことは云わないでしまった。