と云うのは、知らない人は誰も雪子を純日本趣味のお嬢様とばかり取りがちだけれども、それは服装や体つきや言語動作から受ける表面の感じで、あれで実際は必ずしもそうでなく、現に今も仏蘭西語の稽古をしているし、音楽などは日本物より西洋物の方により理解があると云う風なのである。
幸子は内々MB化学工業会社に手蔓を求めて、その、姓は瀬越と云う人の評判などを問い合せて見、外へも手を廻して調べて見たが、どの方面で聞いても人格について悪く云う人は一人もないので、まあこの辺が良い縁かも知れない、いずれ本家とも相談をして、と思っていると、今から一週間程前、突然井谷が蘆屋の家へタキシーを乗りつけて、先日の話はお考え下すったでしょうか、と云う催促と共に先方の写真を持って来た。
例の井谷の畳みかけるような話ぶりなので、此方はこれから本家と相談をするところで、とは、いかにも悠長らしくて云い出せず、大変結構な御縁だと思って只今先方様のことを本家の方で調べているところですから、後一週間もたちましたら御挨拶に出られる積りです、と、ついそう云ってしまうと、こう云う話は早いに限りますから、その気がおありになるのでしたら、出来るだけお急ぎになった方がよくはないでしょうか、瀬越さんの方は毎日電話で「まだかまだか」と矢の催促で、兎に角僕の写真もお目に懸けて、ついでに様子を伺って来て下さいと云われましたので、ちょっとお立寄りしたのです、では一週間後にきっと御返事を、と、五分ばかりの間にこれだけのことを手短かにしゃべって、待たして置いたタキシーに飛び乗って、直ぐ又帰って行ってしまった。