彼女は早く母親に死なれ、父親にも十年程前に死なれてしまった今、本家と分家との間を往ったり来たりして定った住居もないような身の上であるから、明日が日何処へ縁づこうとも格別心残りはないようなものの、でももし結婚するとなったら、誰よりも一番親しくし、頼みにもしていた幸子と逢えなくなると云うこと、いや、幸子にはまだ逢えもしようが、悦子と逢えなくなってしまうこと、逢えても最早や昔日の悦子ではなくなっているであろうこと、―――自分の及ぼした感化なり、注ぎつくした愛情なりを、次第に悦子が忘れ去って別な悦子になっているであろうこと、―――を思うと、母親としていつまでもこの少女からの愛慕を専有していられる幸子が羨しいような、口惜しい気持がするのであった。
彼女が結婚の条件として、二度目の人の許へ縁づくのなら可愛い女の児のある所へ行きたいと云ったのは、そんな理由からなのであったが、たといそう云う条件に当て篏まった所へ行き、悦子以上に可愛らしい女の児の母となることが出来たとしても、とても悦子を愛するようにはその児を愛しられそうもなく思えるので、それを考えると、婚期に後れていると云うことも、端で見るほど自分では淋しく感じていなかった。
どうかすれば、強いて身をおとして気のすすまない人の所へ嫁ぐよりは、このままこの家に置いて貰えて、母親の幸子がする役を自分がさせて貰えるのであったら、それで孤独が救われて行きそうに思いさえした。