そう云えば、先日から数回、いつも悦子が寝てしまってから、夜の十時過ぎ頃に、貞之助、幸子、雪子、時には妙子も加わって、応接間で今日の見合いのことについて相談したことがあり、そこへお春が時々飲み物などを運ぶのに、食堂を通って這入って来たが、その食堂と応接間の境界は三枚の引き戸になっていて、戸と戸の間が指が入れられる程透いているところから、食堂にいると応接間の話声が可なりよく聞えるのであった。
まして夜更けの静かな時は尚更であるから、余程小声で話さなければいけなかったのに、誰もその辺にあまり注意を払わなかったのは事実である。
但し雪子だけは気が付いていたと云うなら、そうかも知れないが、今になってそれを云い出すくらいなら、あの時その場で注意してくれたらよかったものを、―――雪子ちゃんは地声が小さいのだから、あの時にしても殊更小声で話していたようには感じられなかったし、黙っていたんでは誰にも分りようはありはしない。