但し雪子だけは気が付いていたと云うなら、そうかも知れないが、今になってそれを云い出すくらいなら、あの時その場で注意してくれたらよかったものを、―――雪子ちゃんは地声が小さいのだから、あの時にしても殊更小声で話していたようには感じられなかったし、黙っていたんでは誰にも分りようはありはしない。
全く、お春のようなおしゃべりも困るが、この人のようにいつも言葉数の足りないのも困ってしまう。
―――と、幸子は思わずにはいられなかったが、それでも雪子が、「大きな声で話しやはる」と、敬語で云っているところを見ると、彼女の批難は専ら貞之助に向けられているのらしく、そしてあの時黙っていたのも貞之助に対する遠慮だと取れば、頷けないこともないのであった、実際貞之助の声は変によく徹る甲高い声なので、ああ云う場合一番人に聞かれ易いのであるから。