房次郎は全くの下戸であるらしく、五十嵐も耳の附け根まで赤くなって、「いえ、もう私は」とボーイが廻って来る度に手を振っているのであるが、瀬越と貞之助とは好い取組で、まだ一向に顔にも態度にも出ていなかった。
尤も井谷の話にも、瀬越さんは毎晩はおやりにならないそうですけれどもお酒はお嫌いではない方で、機会があれば相当にお飲みになるとのことです、と聞かされていたが、幸子はそれも強ち悪いこととは思っていなかったのであった。
と云うのは、幸子達の姉妹は母が早く亡くなった関係上、晩年の父の食膳に侍りながら毎夜相手をさせられたものなので、本家の姉の鶴子を初め、皆少しずつは行ける口であるところから、―――そして、養子の辰雄も、貞之助も、孰れもいっぱしの晩酌党であるところから、全然飲まない人と云うものも何となく物足りないような気がしていた。